言葉ではないもので 西城秀樹 書きおこし

西城秀樹さんについて語られた言葉を記録しています。

西城秀樹・河村隆一対談

 

河村隆一対談集「PREMIUM CROSS TALK FILE」

(シンコーミュージック/2003年/対談連載雑誌「ミュージックプレス」)

『西城秀樹×河村隆一 カッコいい年の取り方』より、河村隆一さんと西城秀樹さんの出会いと、「時のきざはし」についての対談部分を抜粋

(対談はミュージックプレス2001年3月発売号掲載)

 

河村「秀樹さんとのおつきあいはもう3年ほどになります。最初のきっかけは紅白歌合戦の広い男楽屋。出演者のみなさんとその日の新聞の出場者リストを見ながら、『この子可愛いよね』なんてくだらない話してたら、秀樹さんがうしろから気さくに入ってこられたんですよ」

 

西城「そうそう。その楽屋っていうのが、なんとなく演歌組、ニューミュージック組、ポップス組って分かれてるんですよ。俺は隆一くんたちの集まりが気になってて、耳をダンボにして隆一クンたちの話を聞いてた。で、女性陣の話になったとき、『それはオマエ違うだろう』って輪に入っていったんですよ。そこから一気に盛り上がったね」

 

河村「そうですね。また、家も近いんですよ。道がすいてれば10分くらいの距離で」

 

西城「それで、よく一緒に食事もするようになったんだよね。おかしいのは、隆一クンも俺も、安くてうまいところが好きで、お互い競い合うようにそういう店を探してきては連れていくという。以前彼が連れてってくれたステーキ屋には『ヤングマンステーキ』っていうのがあって、冗談だろうって思ったけど(笑)。腹いっぱい食べて2千円くだいだったよね」

 

河村「もちろん秀樹さんには、ちゃんとかまえて行くような高いところにも連れて行っていただいているんですが、やっぱりときには半ズボンとビーサンていう裸足の感覚で行ける場所も必要なんですよ。気持ちがすごく解放されるし」

 

西城「心をオープンにして店の人と話ができたりすると、そこでまた何かを感じることもあるし、周りのことも気にならなくなるんですよ。とくに隆一クンは詞を書くから、そういうところで感じたことがエッセンスになったりする。まぁステーキから始まって、ざっくばらんなつき合いが始まったよね」

 

河村「僕にしてみたら、秀樹さんというのはテレビでずっと見てきたキラキラした存在だったわけで、その人が僕なんかのところに降りてきて普通に話をしてくれるっていうのがまず驚きだったんですよね。秀樹さんのようなタイプのシンガーで、長く歴史を刻めてる人って、ホントいないと思うし」

 

西城「でも、初めのうちは仕事のしの字もなく、ずっと遊んでたよね。『僕はサーフィン覚えるから、隆一はゴルフ覚えよう!』ってなって。彼はミュージシャンだから、最初ゴルフにはちょっと抵抗があったみたいだけど、タイガー・ウッズが出てきてから、『ゴルフはゲームじゃなくてスポーツなんだ』と意識が変わったようですね。『僕と秀樹さんでゴルフを変えていきましょう』って言い出すようになって(笑)。それから隆一クンはのめりこみましたね。僕は僕で、彼に教えてもらったサーフィンにのめりこんだし。まだ下手なんですけど」

 

河村「いや、センスはいいですよ」

 

西城「とにかくそういう遊びばっかりをしてて、1年くらいたってからかな、どちらからともなく『一緒に仕事やろうか』ってなったんだよね」

 

河村「そうですね。おととし、秀樹さんがボックス・セットになったベストを出されたんですけど、それを聴いてるとき『ブルースカイ・ブルー』とか、ホントに名曲が多いなとあらためて思ったんですよ。そしたら僕も曲を書いてみたくなって、『時のきざはし』のイメージがワーッと出てきた。すぐに『テープを聴いてもらえませんか』と電話したんです」

 

西城「夜中ですよ。『今から行っていいですか』って言うんで、何かあったのかなと思いましたよ。そしたら『でき上がりました』とテープを渡されて。もし彼が女だったら、俺、惚れちゃいますよ。夜中に『コレ、できたの』なんて持ってこられたらゾクッとしちゃうでしょ(笑)」

 

河村「とにかく早く聴いていただきたかったんですよ」

 

西城「聴いてみて、なるほどと俺は思いました。これは西城秀樹の20世紀をバラードで締めくくってほしいという、隆一クンからのメッセージだと思ったんです。それまでたしかに楽曲的にちょっとぬるま湯につかっていたところがあったんで、そこに見事に直球を投げられた気がして。デモテープのときはまだ詞がなくてラララで歌ってたんだけど、ホント、涙が出ました。また彼の歌が上手いんですよ。といっても、そこで俺は『上手いな』とは絶対思わないんですよ。『頭くるな。こんなに響きやがって。冗談じゃないよ。よし、やってやろうじゃないか』って、そんな感じ(笑)。隆一クンてある意味繊細だけど、そうやってときとしてストレートで俺を刺激してくる。だから俺もそれに応えることをやりたいと思うわけで」

 

河村「秀樹さん、あれは僕からのチャレンジだったんです。普段仮歌はスルーで歌うだけでチェックなんかしないんですけど、秀樹さんにお渡しするときは、パンチインとかしましたから」

 

西城「やっぱりそうだろう?それは感じたんだよ」

 

河村「もう一生懸命やりました(笑)」

 

西城「でもホント、これまでの俺の世界になかった曲だったんで、チャレンジしてみようと思ったんです」

 

河村「それ99年の暮れで、年明けから作業に入ったんですよね。あの曲のアレンジはオーケストレーションを中心にしました。気持ちでもっていきたかったんで、拍がカッキリしてないというか、たまるところはたまって、走るところは走るというサウンドです。オケのレコーディングのときはまだ詞ができてなかったんですけど、秀樹さんには同時録音でラララと仮歌を入れてもらいました。その瞬間ですね。『アッ、勝ちだな』と思ったのは。とにかくあの瞬間までお互い手探りだったんで、秀樹さんも『どうかな?』とブースから出てこられたんですけど、『もう、最高です』と僕は手放しで答えました」

 

西城「あれだけ生弦を使った雄大なサウンドなので、それに負けちゃいけないという想いがまずありましたね。でも、その意識だけだと、サウンドに声が交わらなくなっちゃう。やっぱりウネりなんですよね。あのときは頭を真っ白にして歌うことができた。いざ詞ができて歌入れするときに、そのよさが出せるかどうか、その戦いはまだありましたけど」

 

河村「僕なんかが本人の目の前でこんなこと言うのもヘンなんですけど、『こんなに声が鳴るんだ』『やっぱりこんなにスゲーんだ』って、このときあらためて思いました」

 

西城「また、詞がいいんですよ。俺はあの詞を見て、トップを走ってるマラソン・ランナーの孤独感みたいなものを思い浮かべた。この先スピードを上げるか、守りに入るか、あとは自分の調整次第だけど、調整しすぎても負けてしまうというようなね。隆一クンは俺のことを理解して書いてくれてたんだと思うんだけど、なんかそれは彼自身のあり方のような気もして。『ひょっとして、音楽とか生き方に対して、お互い近いものがあるんじゃないかな』って言ったら、彼は『やっぱりそうなんですかね』って笑ってましたけどね。あの曲を歌ってると、不思議と『あー、俺もこう進んでいかなくちゃな』と、詞が自分の中で現在進行形に変わってくるんです。愛というものの中に、俺自身のたどってきた道をうまくまぜてくれてて、すごい大ロマンがそこにあるという感じになってますよね。キーも俺の限界のところだし」

 

河村「そうなんですよね」

 

西城「歌入れはまさに裸でぶつかったという感じでした。少々音程が揺れてても全体のグルーヴを大事にして、なるたけスルーの形で録ろうということになったんです。事前にそういう打ち合わせをしてたんで、現場では隆一クンのディレクションにいっさいお任せしました。ライブでも何度か歌ってますけど、いつ歌っても感動するんですね。いい作品とヒット曲ってあると思うんですが、『時のきざはし』は両方の要素を兼ね備えてますね」

 

河村「実は、今また秀樹さんの新曲を作ってるところなんです。ここ1週間ほどは、秀樹さんのプリプロだけに費やしてました」

 

西城「今回は3曲だよね。今日もこれからアレンジャーさんと打ち合わせをするんですけど、そうやっていろいろ相談しているときが一番楽しいんです。最初の1年、食事やスポーツでプライベートなつき合いができてたので、お互い自然な形で何かを発想することができるんですよね。隆一クンも俺も、かまえて考えようとすると頭のどこかがブロックされちゃうんで、悩んだときは遊びますね。ミュージカルを一緒に見に行ってみたり。で、『あれよかったよね』なんて話してるうちに、なんでもないところにふと何かが見えてくる。そこからの発想は早いんですよ、彼は。だから俺もまた別の舞台を見に誘ってみたりね。いいものを書いてもらうために、いい環境をどんどん作ってるんですよ(笑)」

 

河村「連れていってくださった舞台のシナリオが、ドンピシャに僕の心情にハマったりもするんですよ」

 

西城「そういうのを選んでるわけよ(笑)。感動してもらえると、こっちとしてはシメシメと思うわけで」

 

河村「涙出そうになるのを、サングラスをかけて隠したりしてました(笑)」

 

西城「一緒にものを作るって、そういうつき合いの中でできてこそ本当だと思うんだよね。『お願いします』、『ハイ、できました』ではつまらないし、かといって自分ひとりで作るのでは世界は広がっていかないと思う。やっぱり、信頼できる人と何かを作れるというのは面白いですよね」

 

河村「僕がそういう人になれていつかどうかはわからないんですけど、ただ僕が本当に感じているのは、秀樹さんのようなタイプの歌を歌う方で、秀樹さんみたいなポジションにいる人は他にはいないってことなんです。僕は今30歳なんですけど、40、50代になったときに何ができるかと、すごく興味がある。だから、とにかく秀樹さんに曲を渡すときは、自分が本当に歌いたいメロディかということを基準にしてるんです。秀樹さんがこれまで歌ってこられた名曲に負けないような名曲を、たとえ時間がかかっても僕は作って歌ってもらいたいと思ってるんです。21世紀の西城秀樹の代表曲はコレ!っていうものを、いつか絶対作りたいんです」

 

西城「『時のきざはし』は、こねくりまわしたところがなくて、純粋にサビで気持ちいいところにもっていくためのメロディの作り方をしてると思う。基本的に彼はすごくロマンチストですよ。LUNA SEAのアルバムも聴いたことあるけど、ソロで書いてる曲はそれとはまったく違ったものになってるし。そこがまた面白いと思ったよね。もしかしたら、隆一クンがこれからやろうとしてることを、俺はいち早く垣間見させてもらってるのかもしれない。とにかく、俺自身が自分で持っているとは気づいてなかった世界を、うまく引き出してくれてます。また彼は、70年代の一番おいしいところをよく知ってるんですよ。日本のスタンダードとは何ぞやということをよく理解して、21世紀に橋を渡してる。今、ほとんどが体感音楽って感じのものになってるけど、彼は古いものと新しいものとのミスマッチを考えてますね。今回のカップリングは3連の曲だし」

 

河村「ちょっとフィフティーズっぽい感じなんですよ」

 

西城「俺なんかが聴くとハッとするくらい懐かしい感じの曲だけど、ちゃんと隆一ワールドにまとめてますよね。『俺こういうのすきだから、もう1曲増やしてよ』なんて、今またお願いしてるんですけど」

 

河村「秀樹さんは、もちろんスピードでドライブしていくのもイケるんですけど、僕はどこかで深い呼吸をしてる感じを出したいと思ってるんです。それは、曲の間だったり、歌詞ののせ方だったり。だからといってバラードってことではないんです。ちょっとした癒しが感じられるものというか」

 

西城「ふたりとも、そういうのが必要な年代なのかもしれないね。あと大事なのは、世代に関係なく人々が何かを感じることのできるしだよね。簡単だけど深い言葉というのかな。俺から具体的にこの言葉を使ってほしいとは言わないけど、たぶん隆一クンは俺との雑談の中でフッと感じたことを頭の中にメモしてると思う」

 

河村「僕は今の秀樹さんの見え方のとのギャップを、どこかに出していきたいと思ってるんです。たとえば『時のきざはし』は、秀樹さんが歌うには甘すぎる詞かもしれない。でも、あえてハードボイルドな方向にはしなかったんです。秀樹さんの日常の顔がほんの少し見えてくるような、それでいて堂々としているような、そんなイメージのものにしました。というのは、一方の顔は、熱唱の似合う情熱的な秀樹さんだけど、軽やかにささやくように歌うのが似合う秀樹さんというのもあるわけですよ。そのギャップを僕は知ってるし、ファンの人たちも一番見たいんじゃないかなと思うんです」

 

西城「僕は坂本龍馬が大好きなんだけど、あの強い男がおりょうという自分の彼女の前で、初めてひざまづいて泣きじゃくるという場面があってね。そこがすごく感動的なんだよね。そういう深さのある詞をやっぱり歌ってみたいと思う」

 

河村「どんなに強い人でも弱さがある。その弱さを表現できる人って捨て身だし、本当に強い人なのかもしれないですね。それをまた武器にしていくと女々しくなっちゃうけど、竜馬のように他では絶対見せない涙を女性の前で見せるというのは、男のロマンだと思います」

 

 

 

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